10.ナナ(1)

「ちょっと休憩させて。」
3時間ほどキューブを走らせたのち、ナナはそう言って停まった。
赤い山を5つほど越えたかもしれない。
うっすらと夜が明け始めていた。
アシュアが外を見ると、大小の岩が点在する赤い大地が広がっていた。
ナナはキューブの外に出ると煙草をくわえた。
ケイナが外に出たのでアシュアもキューブから降り、こわばった体を伸ばした。
「ここ、どこ。」
アシュアは見渡す限り真っ赤な土がむき出しのままの無機質な風景を見て尋ねた。
走ってきたまっすぐの道と真っ白なキューブの車体が蛍光色のように見える。
ナナはキューブにもたれかかり、煙を吐き出した。
右手から来る風が煙をあっという間に運んでいった。
「メインタウンとは違う自治区よ。居住区がもう少し先にあるわ。でも、そこも通り過ぎるから。」
ナナはため息をついた。
「連絡をしないと。あなたのわがままを伝えるのは気が重いわ。」
ナナはケイナを睨みつけたが、ケイナは黙ったまま空を見上げている。
「『A・Jオフィス』に行かないっていっても、星間機が動くのはいつになるかわからないわよ。それまでどうするのよ。」
「前はグリーンランドに降りたじゃない。」
ケイナが空を見上げたまま言ったので、ナナは目を細めた。
「エアポートがなくったって、降りることができるだろ。」
「なに言ってるの。」
ナナは呆れたように言うとケイナから目をそらせてかぶりを振った。
「それは違法よ。」
ケイナは何も言わなかった。
ナナはキューブの中にあった灰皿で煙草を消すと、再びケイナを見た。
「とりあえず、連絡するわよ。いい?」
「フォル・カートと話をさせて。」
ケイナは相変わらず空を見つめて言った。
ナナは訝しそうに彼を見た。
「副社長と?どうして副社長を知ってるの?」
ケイナはガラスの奥の目をちらりとナナに向けたきり何も言わなかった。
ナナは首を振った。
「訳、わからないわ…。」
そして通信機をとりあげた。ほどなくして相手が小さな画面に映った。
「ナナ。何してた。」
若い男が言った。
「遅くなってごめんなさい。今0015ポイントにいるわ。」
「なんでそんなところに。」
ナナはキューブの外に立つケイナをちらりと見た。

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