7.思惑(1)

翌日ヨクはカインの部屋を訪れて、いきなり彼の構える銃口に出迎えられて立ちすくんだ。
「なにしてんだ!」
「ごめん。」
カインはデスクの脇に立って申し訳なさそうに銃を下におろした。
「しばらく持ってなかったから、慣れておこうと思って。」
「慣れておこうとって…。」
ヨクはカインに近づくと、彼の顔と手元の銃を交互に見て困惑したような表情になった。
「何年も使ってないから…やっぱりだめかな…。」
カインは銃を見つめてつぶやいた。
「何をしようとしてるんだ?」
「ねえ、ヨク。」
訝しげに目を細めるヨクの表情を無視してカインは言った。
「このビルに射撃場ってあったっけ。」
「そんなもんあるわけないだろ。」
何を考えているんだといわんばかりにヨクは答えた。
「そうだよな…。ましてや実弾だし…。」
カインはコトリと銃をデスクに置いて考え込んだ。
「なんでそんなもん持ち出してるんだ?」
詰め寄るヨクの顔にカインは目を向けた。
「自分の身は自分で守ろうと思って。」
「え?」
ヨクはカインの顔をまじまじと見た。
「そんなこと…。」
「そう、できるわけがない。」
カインは彼の言葉を遮って、銃を引き出しに片付け、デスクから離れるとソファに座った。
「200mの距離を撃つやつなんか、たとえアシュアがそばにいても無理だ。」
「カイン…。」
「でも、何もしないよりはマシだ。」
「ボディガードを雇う…」
「雇わない。」
カインはヨクの目を見据えてつっぱねた。
「少しでも費用を削減したい。」
「ばかなことを言うな!」
ヨクは思わず声を荒げたが、カインはそっぽを向いた。
最初からヨクが怒ることは承知のうえだったのだろう。
「費用と社長の命とどっちが大事だよ!」
カインは少し小首をかしげた。そして答えた。
「どっちも。」
ヨクは呆れたように首を振った。
「どうかしてる。どうかしてるよ…。」
「ぼくは死にたくないんだ。」
カインはソファに身を沈めて言った。 「あなたも死にたくないでしょう。死にたくないから、かつて『ビート』だった自分の腕に賭ける。」
「ふざけんなよ。きみに守ってもらうのか?そんな本末転倒なことがあるかよ。」
ヨクは手を振り上げた。
「じゃあ、あなたも射撃の訓練をする?」
カインの言葉にヨクはぐっと詰まった。生まれてこのかた銃なんか手にしたこともない。カインは彼から目を離した。
「ユージーの秘書に会いたい旨を伝えてください。彼の都合がいい一番近い日時でアポイントを。」
ヨクは黙っていた。
口を真一文字に引き結んでいる。
カインはそれきり何も言わなかった。
ヨクもそのまま何も言わず、しばらくして部屋を出て行った。

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