7.思惑(2)

その日の夜、ヨクは部屋に入ってくると、黙ってカインの前に布包みを置いた。
カインが彼の顔を見上げると、ヨクは肩をすくめた。
「気が進まないがね。」
包みを開けると新しい銃が見えた。
「アンリ・クルーレとは明日12時だ。彼のほうからこっちに来てくれる。…これは彼が手配して人づてに届けてくれた。」
「クルーレが?」
カインは目を細めた。ヨクはうなずいた。
「カートは軍の関連だからこういうのは得意だよ。きみの腕はだいたい把握していた。ユージー・カートからも時々話しを聞いていたんだろう。軍仕様の最新式だそうだ。」
カインは銃を持ち上げた。今の自分のものよりすんなり手に馴染む。
「自分の身は自分でというのは賢明な選択だと言ってたよ。」
ヨクは首を振りながらソファに歩み寄るとどさりと腰掛けた。
「たくさん護衛をつけていたのに、全く役に立たないのなら、いないのと一緒だとさ。」
カインはユージーと一緒に降りてきた数人の兵士たちを思い出した。
クルーレはもしかしたら彼らを解雇してしまったかもしれない。
「ユージーの容態について何か言っていましたか?」
「変わりない。」
ヨクは答えた。
カインは銃を元通りに包むと人の目に触れないようデスクの引き出しの奥に片付けた。
「ユージー・カートはたくさんの部下を抱えていた。仕事柄、万が一のことがあっても物事が滞りなく進むよう日ごろから手配していたそうだ。だからとりたてて現状の業務に差し支えはないが、彼の昏睡が長引くようだと次期社長のことを重役会で考えないといけないだろうってところまではきているらしい。」
カインは椅子の背もたれに身をもたせかけると、口を引き結んで宙を見つめた。
代替わりをすると、ケイナやセレスのことは蚊帳の外になるだろう。
「ヨク…。」
カインはつぶやくように尋ねた。
「もし、ぼくに万が一のことがあったら、カンパニーは同じように業務を続けられますか?」
「たぶんね。」
即座に答えるヨクにカインは思わず彼に目を向けた。
「カートと同じだよ。ほどなくして次期社長ができるだろう。でなきゃ組織じゃないよ。」
カインが再び口を開こうとすると、ヨクはそれを遮るように畳み掛けた。
「おまえがいなくなったらおれは辞める。」
カインは目を細めた。
「…なんでそんなにぼくに固執するんです…。」
「トゥ・リィの息子だからな。」
ヨクは肩をすくめて答えた。」
怪訝な顔つきでこちらを見るカインにちらりと目を向けて、ヨクはかすかに口を歪めた。
「トゥと約束をしたんだ。自分に何かあったときはきみを頼む、と言われた。」
「え…?」
カインが目を見開いたので、ヨクはため息をついた。
「これ以上は言いたくない。」
「いつもそうやって…。」
カインは椅子の背もたれに寄りかかって腕を組むと不機嫌そうにつぶやいた。
ヨクは知らん顔をして壁のモニタを開くと報道を映した。
「あなたは…。」
カインはそんな彼の顔を見て言った。
「トウが20代でひとつの部署を任されたとき、彼女の直属の部下になっていますよね。以後20年ほどトウの近くで仕事をしてきてる。」
「そんなことはおれに聞かなくても調べりゃすぐ分かるだろ。」
ヨクは素っ気無い。カインは立ち上がると彼に近づいた。
「あなたは父にも会っているはずだ。どうして何も教えてくれないんです?」
今日はてこでも引き下がらないつもりだった。
しかしヨクはまるで聞こえていないかのように壁のモニタを見つめている。
カインは彼とモニタの間に立ちはだかった。
「見えないよ。どきなさいって。」
子供をなだめるような口調でヨクが言った。
「クローズ!」
カインはむっとして壁に向かって怒鳴った。
シュンッと音をたててモニタが消えた。
再び向き直って彼を見下ろした。
ヨクはじろりとカインを見上げたが、すぐに目をそらせた。

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