26.No one knows(1)

午後2時、それぞれが順番にオフィスをあとにした。
リアとティ、ブランとダイはオフィスに残って彼らを見送った。
ティが小さく震えているのに気づいたリアは彼女の肩を抱いた。
「大丈夫よ。カインはちゃんと帰ってくるわ。」
リアはクルーレから渡された小さな通信機を耳に嵌めた。
そして銃をとりあげた。
「ここはあたしが守るからね。」
「銃…撃てるの?」
ティはリアの顔を見た。リアは少し舌を出した。
「実は使ったことないの。」
ティの目がびっくりしたように見開かれた。
「でも、大丈夫。クルーレに剣を貸してもらったから。」
リアは腰に挿した軍用の小さな短剣をティに見せた。
「嘘でしょ…」
『あいつ』に遭遇したことのあるティは震えた。
「そんなもので太刀打ちできるわけないじゃない。」
「大丈夫だったら。」
リアは言った。
「ここにはまず来ないわよ。『ノマド』の守護があるから。」
リアはダイとブランの顔を見た。
「ね?」
ね、って…。自分を見上げる双子の顔にティが目を向けると、ダイとブランは彼女に笑みを見せた。ティは怯えきったように椅子に座り込んだ。
「あなたは強いのね…」
ティはつぶやいた。
「強いわよ。当たり前じゃない。」
思わずリアの顔を見上げると、リアはティににっこり笑ってみせた。


ケイナはヨクをプラニカに乗せてビルをあとにした。
その5分後にカインとアシュアはエアバイクで出発した。
クルーレとセレスは一緒に見張りのビルに向かった。
ランド社には予定通り着き、ヨクとケイナはビルの中に入って行った。
午後3時10分、ふたりはランド社をあとにしてプラニカに再び乗り込んだ。
「出たみたいだな。」
窓の外を見ていたクルーレは耳元の通信機に手を当ててつぶやいた。
セレスはそんな彼にちらりと目を向けたあと、自分のいるビルの部屋をぐるりと見回した。
床材も壁紙もほとんど剥がされて骨組みだけになったような建物だ。
窓に嵌めこまれていたガラスもとっくの昔に外されているようだ。
「10分後にローズサーチショップに着く。予定通りだ。」
クルーレは腕の時計を確かめた。
「クルーレさん。」
セレスに声をかけられて、クルーレは彼女を振り向いた。
セレスは長い髪をリアに後頭部でひとつに結わえてもらっていた。
黒いジャケット、細身の黒いパンツにブーツといういでたちは女性用の一番サイズの小さい軍服だが、それが余計に彼女の細さと目の大きさを際立たせた。
大きな緑色の目に見上げられて、クルーレは少し眩しそうに目を細めた。
「どうした。」
「このビルの屋上には出られるの?」
「屋上?」
クルーレは頭上を見上げた。
「たぶん出られると思うが…。」
「このビル、60階建てだよね。」
「ああ、そうだ。」
セレスは少し首を傾けて考え込むような顔をした。
「少し低いけど…いいか。」
そうつぶやくとくるりと背を向けたので、クルーレは慌てた。

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