26.No one knows(2)

「どこへ行くんだ!」
「屋上。」
セレスは答えた。
「なんか変なんだ。屋上のほうがよく分かるかもしれない。」
「待ちなさい!」
エレベーターではなく、非常階段の扉をあけて飛び出して行くセレスをクルーレは急いで追った。
ケイナといい、この娘といい、突拍子もない行動が多くて困る。
ケイナはまだワンクッション置くだけの余裕があるが、この子はいきなりだ。
「セレス、待て!相手に姿が見えるとまずい。」
とんとんと飛ぶように階段を昇っていくセレスの後ろからクルーレは怒鳴った。
「そんなゆとり、ないかもしれない!」
セレスは叫び返した。
ゆとりがない?
クルーレは緊張した。あいつの動きが変わったということか?
ようやっとクルーレが屋上にたどりつくと、セレスは手すりもないところで仁王立ちになっていた。
緑色の髪が解いた帯のように風に揺れている。
バランスを崩したらあっという間に転落しそうだ。
「ヨクがショップに着いたぞ。危ないから、そこから離れなさい。」
息をきらしながらクルーレは言った。
「分かってる。」
セレスは彼を振り向かずに答えた。
気配を感じる。すごく近くで。
どこだろう。銃を握り締めた。
ケイナ、力を貸して。

(ケイナ。)
ケイナはセレスの声を聞いたような気がして顔をあげた。
ヨクと入れ替わったアシュアがショップから出て来た。
じゃあ、おれこっちね、というように指を指したので、ケイナはうなずいた。
再び歩き始めたアシュアを見送って、ケイナはセレスがいるはずのビルに顔をめぐらせた。
「ケイナ!」
今度は本当に聞こえた。
「カイン!」
ケイナが叫ぶのと、
「伏せて!」
セレスが叫ぶ声がかぶさった。銃を乱射する音が聞こえる。
アシュアはヨクのコートをかなぐり捨てると自分のバイクが停めてある方向に走った。
「ケイナ!」
ケイナは声のほうに顔を向けた。
カインがエアバイクの上から彼に手を差し出した。
ケイナはカインの手を掴むとバイクの端に足をかけて彼の後ろに飛び乗った。
「今、屋上だ!」
クルーレの緊張した声が聞こえた。
ケイナは唇を噛んだ。
あいつはセレスのほうに来た。
なぜ。『ノマド』の守護はどうなったんだ。
違う…。
『ノマド』はセレスをターゲットにするために彼女を起こしたのか?
セレスとクルーレの待機していたビルまで来ると、カインは窓からバイクでビルの中に突っ込んだ。
バイクは30階程度までしか上昇できない。いったん地上に降りるよりは、そのほうが早い。
半ば廃墟となったビルはそういう意味では好都合だったかもしれない。
もっと新しいビルだったらとてもバイクではガラスを破って突っ込めなかっただろう。
ケイナはがらんとしたフロアにバイクが入り込むなり、非常階段に続くドアを銃で吹き飛ばした。

NEXT>>TOP