25.ノマドの予測(1)

まぶたに光を感じて、ケイナは目を開けた。
今、何時だろう…。
何度か瞬きをして、光を感じたほうに目を向けると、窓から陽が差し込んでいるのが見えた。
その直後、小さな寝息をすぐ近くで感じて少しびっくりした。
そうか、セレスが戻ったんだ…。ほっと気持ちが和む。
お互いのぬくもりをしっかりと感じながら、ふたりとも抱き合って眠った。
セレスは冷たくなっていくケイナではなく、ケイナは氷のように冷えきったセレスの頬ではなく、相手の体温を確かめるようにふたりは抱きしめあった。
目が覚めると何年もたっているわけではない。
これからは、何度目が覚めても『明日』がくる。
時間は普通に動き始めたのだ。
彼女の頬に垂れかかっている髪を指でそっとかきあげると、わずかに「ケイナ」と、言うように唇が動いた。
セレスは眠る前に何度もケイナを呼んだ。
心地よい彼女の体温にケイナがふっと眠りに落ち込みかけると、セレスは名前を呼ぶ。
「ケイナ?」
ケイナは手をあげてセレスの髪を撫でてやった。
しばらくしてまた眠りにつきそうになると、セレスは小さな声で呼んだ。
何度かそれを繰り返して、ケイナは小さな欠伸をして目を開き、薄ぼんやりした光の中でセレスの顔を見た。
「ケイナ。」
緑色の目が見つめ返してきた。
「ケイナのこと、大好きだよ。」
何か返事を求めているんだろうか。そういうの、勘弁して欲しいんだけど、と思いながら彼女の髪を指で梳いていると、ケイナの心の中が分かったのか、セレスはくすくすと笑った。
「言ってみたかっただけだよ。」
そう言って再び大きな目がこちらを向いた。
「ねえ、アルとトニのこと、覚えてる?」
「うん…。」
ケイナは答えた。
「覚えてるよ…。」
「元気にしてるかな。」
「…たぶん。」
「会いたいけど…会ったらきっとふたりともびっくりしちゃうよね。」
「…。」
「だって、もう完璧にこれだし。」
セレスは可笑しそうに笑いながら、自分の鼻の頭を指差した。
「おばさんとおじさんにもいつか会えるのかな…。変わっちゃって…みんながびっくりしちゃうよね…。ちゃんと分かってくれるかな。」
ケイナは何も答えることができなかった。無言でセレスの髪を指で梳き続けた。
「兄さんは…。」
ケイナの指が止まった。
セレスはケイナから目を逸らせると、彼に顔を近づけた。
「…いいよ。ケイナがそばにいてくれるなら。」
つぶやくように彼女は言った。
セレスは何かが分かっているんだろうか。聞いてみたい気持ちもあったが、とても口を開くことができなかった。

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