22.Bloody hand(1)

翌朝、まだ暗いうちにケイナはダフルを揺り起こした。
テントの中は床にそのまま寝転んで寝入ってしまった子供たちで一杯になっていて、ダフルはその真ん中で口を開けて大の字になっていた。
「ん。」
ダフルが声をあげそうになったので、ケイナは、しっと指を立てた。
眠そうに目をしばたたせてケイナを見て、ダフルは自分の肩に頭をもたせかけて眠っている男の子をそっと床に降ろして立ち上がった。
子供の手を踏みつけないよう気をつけながら外に出ると、ブランとダイが小さな荷物を持って待っていた。ダイは大きな欠伸をしている。
「エリドにだけ、挨拶をしておいで。」
ケイナがそう言うと、ふたりはうなずいて手を繋いで長老のテントに歩いていった。
「今、何時。」
ダフルは眠そうな声でそうつぶやいて、腕の時計を見た。
「うわー…。4時半か…。」
「顔を洗って来たら。」
ケイナは言ったがダフルは首を振った。
「いい。面倒臭いよ。」
ケイナは腕をあげて伸びをするダフルから目を逸らせると、ブランとダイが戻って来るのを待った。
しばらくしてふたりはテントに向かったときと同じように手を繋いで戻ってきた。
ダフルはふたりの荷物を持ち上げた。
「ぼくが持ってあげるよ。」
そう言ってから、少し首をかしげた。
「軽いね。何が入ってるの?」
「えっとね…」
ダイが言いかけたので、ブランが彼を肘でこづいた。
「秘密。」
ブランはそう言うとにっこり笑った。
ダフルは笑ってうなずくと、ふたりの小さなバックを自分の荷物の中に入れた。
顔を巡らせるとケイナが歩き始めていたので、慌てて荷物を背負うとふたりに手招きしてあとを追った。
コミュニティから出る前に、ダフルは名残惜しそうにテント群を振り返った。
「ここが好きなの?」
ダイが尋ねると、ダフルはうなずいた。
「うん。来るときはちょっと不安だったけど、いいところだなあって思ったよ。」
ダイが手を差し出したので彼はその手を繋いで歩き出した。
ブランはケイナと手を繋いで先を歩いている。
「お茶の匂いとか、花の匂いとか、草の匂いとか。こういうの、ずっと忘れてた。」
ダフルは言った。
「訓練で森に入ったことは何度もあったのに、土を踏む感触も、少しも感じてなかったと思うんだ。」
ダイは時々ダフルを見上げて黙って聞いていた。
ケイナの耳にも彼の声は届いていたが、彼は何も言わなかった。
「ねえ、ケイナ。」
ダフルは前を歩くケイナに声をかけた。
ケイナはちらりと振り返ったがやはり返事はしなかった。

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