22.Bloody hand(2)

「ぼくね、決めたよ。」
「何を。」
振り返らずに聞くと、ダフルはダイを見下ろしてにっこり笑った。
「ぼくさ、この任務が終わったら、軍を辞めるよ。」
ケイナは無言のままだ。
「合ってないんじゃないかっていうのはずいぶん前から思ってたんだ。でも、父さんがいるし、姉さんもやっぱり軍の所属になったし、当たり前みたいにぼくもって考えてて。もう22歳だから、今から何ができるかわからないけど…そうだな…。」
彼はそう言ってダイを見下ろした。
「ジュニア・スクールの先生がいいな。」
「先生ってなに?」
ダイが尋ねた。
「きみみたいな子供たちがいっぱいいる場所で、勉強を教える人のことだよ。」
ダフルは答えた。
「ぼくもダフルに教えてもらうこと、できる?」
ダイの言葉にダフルはふふっと笑った。
「ジュニア・スクールに入る手続きをすればいいんだよ。字は書ける?」
ダイはこくんとうなずいた。
「うん。少しだけなら。」
「じゃあ、大丈夫だよ。5年生からブランと一緒に通える。そうだな…きみたちが修了するまでになんとか先生になれるといいな。」
「そこ、楽しいの?」
「うーん」
ダフルは首をかしげた。
「楽しいときとそうでないときがあるかもしれないな…。ぼくはあんまり勉強が好きじゃなかったから、退屈してたかも。」
ダフルはそう答えると、再びダイを見た。
「でもね、ぼくが先生になったら、絶対、退屈させない先生になるよ。」
ダイは少し口の端を持ち上げてダフルに笑いかけた。
ダフルは前を歩くケイナに目を向けた。
「ねえ、ケイナ。きみは何か考えてることがあるの?きみだったら、今から、なんでもできるじゃない。『ライン』を中途で辞めても、3年前から特待生制度もできたしさ…。」
ダフルはケイナの後ろ姿に言った。
ブランと繋いでいるケイナの左手がかすかにぴくりと動いた。
ブランがケイナの顔を見上げたが、顔を見た限りでは彼は無表情のままだった。
「なんだかいろいろ事情が複雑そうで、ぼくはよく分かってないんだけど、一段落ついたらさ…」
「うるさいよ。」
ケイナは言った。
「え?」
「おれ、いちいち詮索されるの好きじゃない。」
ダフルは目を丸くした。ダイに目を向けると、ダイは顔をしかめてしーっというように指をたててみせた。ダフルは苦笑して肩をすくめた。
ブランがケイナの手をぎゅっと握り締めた。
「あっちでダフルと手を繋いでもいいよ。」
ケイナはブランに目を向けずに言ったが、ブランはかぶりを振った。
「おれと手を繋いでたら、嫌な思いが流れ込むんじゃないの?」
しかしブランはかぶりを振って、繋いでいないほうの手も彼の左手に持ってきた。
まるでしがみつくような感じだった。
ケイナはそこで初めてブランに目を向けた。いつもおしゃべりなブランがじっと黙っている。
「どうしたんだ?」
ケイナは目を細めた。
それでもブランは勢いよく首を振って何も言わなかった。
まるで怒っているような顔だ。いや、怯えているというべきか。
少し異様な気がしたが、ケイナには殺気も不穏な気配も感じられなかった。

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