21.Puzzling Puzzle(1)

地球に戻ったケイナとダフルは、ジェ二ファに教えてもらった森の入り口にプラニカを停めた。
「通信機は持っていけないから。磁場に入ると壊れる。」
ケイナがそう言ったので、ダフルはバッグに入れようとしていた通信機を座席に置いた。
「とりあえず3日分の食料と水。早けりゃ一日だって言ってたけどほんとかな。」
ダフルはそう言いながら荷物をとりあげるとプラニカを降りた。
ケイナは彼から荷物をひとつ受け取ると、肩にかけて歩き始めた。
「訓練ではよく森に入ったけど、『ノマド』がいるなんて全然分からなかったな。」
草を踏み分けながらダフルはつぶやいた。
ケイナは何も言わなかった。
そもそもダフルの口は休むことを知らないので、全部に返事をしていると疲れきってしまう。
しかし、ダフルはケイナがほとんど返事をしないことも全く気にならないようだった。
「ねえ、きみはどこの養成コースにいたの?」
ダフルは前を歩くケイナに走り寄って横に並びながら尋ねた。
「軍服を着てるけど、軍の所属じゃないでしょう。見た感じ、情報通信系か、医療系か…うーん、マスコミ関係かなあ。」
にこにこ笑いながら言う彼の顔を、ケイナは少しうっとうしそうにちらりと見た。
「ちょっと前にきみみたいな雰囲気のミュージシャンがいたよ。すっごく歌がうまくてさ、ぼくはけっこうファンだったんだ。途中で引退しちゃったけど、もったいなかったな。」
ケイナはやはり何も言わなかった。
「父さんは、そういう音楽を聞いてるから、おまえはいつまでもひ弱なんだって言ってたけどね。」
ダフルはふふふと笑った。
「ねえ、きみは…」
そう言ってケイナを見上げた途端、彼の目が丸くなった。額に銃口がつきつけられているのを見たからだ。
「おれ、『ライン』だったよ。『コリュボス』の。希望は諜報。」
ケイナは言った。
「ハイラインの途中でドロップアウトしたけど。」
そう言って銃を上着の内側に入れた。
「そうなの?」
ダフルはびっくりしたようにケイナを見た。
「担当は誰?」
「ジェイク・ブロード。」
不機嫌そうに答えて再び歩き始めるケイナの言葉を聞いて、ダフルの顔がますますびっくりしたようになった。
「ブロードが担当するのはかなり上位の生徒だけだよ。ぼくは規定期間ぎりぎりまでいたんだけど、きみのこと覚えてないなあ。きみみたいな子だったら相当目立ったと思うけど。」
そりゃ覚えはないだろう。ケイナは心の中でつぶやいた。
自分が『ライン』にいた頃、ダフルはまだジュニア・スクールだ。
それにしてもジェイク・ブロードがまだ『コリュボス』の『ライン』にいるというのは驚きだった。
「ハイラインまで進んでもったいないことを…。なんで辞めちゃったんだ?」
ダフルはずけずけと疑問をぶつけてくる。ケイナは返事をしたことを後悔した。
「続けられなくなっただけ。」
ケイナが答えると、ダフルは首をかしげた。
「なんで?きつかったから?」
ケイナは曖昧にうなずいた。彼に全てを話す気もなかったが、返事をするのが面倒臭かった。
「やっぱ、あれかな。ブロードの射撃の訓練はきつかったからねえ。ぼくはもちろん彼じゃなかったけど、射撃は最後までだめだったよ。」
ダフルは一方的にケイナが辞めた理由をブロードに押しつけて納得している。
「『コリュボス』の『ライン』だったんならさ、あいつ知ってる?ほら…」
「あんたさ。」
なおも話し続けようとするダフルを遮ってケイナは言った。
「ずっとしゃべってると、体力消耗するよ。」
「大丈夫だよ。」
ダフルは笑った。
「体力には自信あるんだ。」
ケイナは呆れたようにかぶりを振った。

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