21.Puzzling Puzzle(2)

ダフルがむっつりと黙り込んでしまったのはそれから2時間後だった。
2時間もしゃべり続けたのだから確かに体力はあったのだろうが、足場の悪い場所を歩いていて消耗しないほうが不思議だ。
しばらくして、ケイナはへたりこんでしまったダフルを振り向いて立ち止まることになった。
「ちょっと…ちょっと、水を飲むから。」
ダフルはケイナを見上げて照れくさそうに笑った。
「訓練で教わっただろ。」
眉をひそめて言うケイナの言葉にダフルはうなずいた。
「分かってる。分かってるけど。」
ダフルは水を口に含んで飲み込むと、ふうと息を吐いた。
「ノ…『ノマド』のコミュニティってどんなところなのかな。」
ケイナは目を細めてダフルを見た。
ダフルはケイナをちらりと見上げて視線を泳がせた。
「あ、あのジェ二ファっていう人を見てると、別にそんな怖い場所じゃないなと思ったんだけど…なんていうか、ああいう経験て初めてで…。」
ダフルは目をしばたたせた。
「敵か味方かわかんないようなこと言ってたよね。もし敵だったらぼくたちはその…」
「『ノマド』は武器は持たないんだ。」
ケイナは答えた。
「別に怖い場所でもない。」
「そうなんだ?」
(大きな失望は待っているかもしれないけれど。)
ケイナは心の中で付け加えた。
うかがうような目で見上げるダフルを見つめ返したあと、ケイナは視線を逸らせた。
ダフルはケイナから手に持った水のボトルに視線を移した。
「ねえ、ケイナ。」
ダフルはボトルを見つめながら言った。
「ジェ二ファはさ、まだ若いから、もっと長生きするよ。」
意外な言葉にケイナはダフルに目を向けた。
その顔を見上げてダフルは小さく笑みを見せた。
「あんなこと言ってたけどさ、人の死なんてそんな簡単に前もって分かるもんじゃないよ。」
彼はそう言うと、自分の言葉に自分でうなずいた。
「ぼくがまた『コリュボス』に連れていってあげるよ。行けば、ジェ二ファがぴんぴんしてるってことがきっと分かる。大丈夫だよ。必ずまたジェ二ファのところに連れて行ってあげるから。」
ケイナはダフルに近づくと、彼の荷物を持ち上げた。
びっくりしてダフルが見上げると、顔に垂れかかった髪の奥で、ケイナの口元がわずかに笑みを浮かべたように見えた。
「行くよ。」
ケイナはそう言うと歩き出した。
ダフルは慌てて立ち上がるとケイナのあとを追った。


それからさらに2時間ほど歩き続けたあと、ケイナはふいに立ち止まった。
「どうした?」
ダフルが彼を見上げた。ケイナはしっというように指を立てた。そして周囲を見回した。
「隠れても分かるよ。」
彼がそう言うなり黒い小さな影が飛び出したので、ダフルは悲鳴をあげた。
「お兄ちゃん!すごい!」
小さな茶色い目がケイナにしがみついて叫んだ。
「お父さんと一緒だ!」
「ブラン…。」
ケイナは戸惑ったように彼女の顔を見つめた。
「びっくりした…子供か。」
ダフルは額をぬぐってつぶやいた。
「ダイ!」
ブランが呼ぶと、木の陰からおずおずと男の子が顔を出した。
ブランにそっくりだが、彼女とは感じが違った。
くるくるとした赤い巻き毛がアシュアを思い出させる。
「お兄ちゃん、ダイと会うのは初めてだよね。」
ダイはふたりに近づいて顔を見上げた。
「ぼくは会ってたよ。ブランの目で見てた。」
ダイは小さな声で上目づかいにケイナを見て言った。
「この子たち…誰?」
ダフルが困惑したような表情でケイナの顔を見た。
「『ノマド』の子供たち。」
ケイナがそう答えたので、ダフルは目を丸くした。
「迎えに来たよ。おばさんはちゃんと教えてくれたんだね。」
ブランはふたりを見てにっこり笑った。

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