18.顔(1)

お昼前になって、ヨクはカインのオフィスに顔を覗かせたが、デスクの前にカインはいなかった。
「カインは、まだ?」
ティのオフィスに行って尋ねると、彼女はうなずいた。
ケイナが少し離れた場所で書類に目を落としているのがヨクの目に入った。
「起こしていないんです。とてもしのびなくて。」
ヨクがケイナを見ていたので、ティも彼に視線を向けた。
「ケイナは8時にここに来たらしくて…。でも、誰もいなくて時間を持て余してたみたいだから、書類を分けるのを手伝ってもらうことにしたんですけど…。」
ティはヨクの顔をうかがうように見上げた。
「良くないかしら、やっぱり。」
「まあ、ケイナがそれでいいって言うなら別にいいけど…。」
ヨクは曖昧に答えた。ケイナ自身は何も反応しない。ヨクが来たことすら気づいていないような表情だ。
左手で持ったペンを指で弄びながら書類を睨みつけている。
「まあ、カインも眠れる分だけ成長しているのかな。緊張が強すぎて眠れないっていうほうが心配だ。」
ヨクは苦笑しながら煙草をポケットから取り出しながら言った。
「ヨク、ごめんなさい、煙草は向こうで吸って欲しいの。」
「ああ、失礼。」
彼はティの言葉に慌てて煙草をしまい込んだ。
「クルーレは来た?」
「いえ…。今日はもうお帰りになられたんだと思います。」
「セレスは?」
「リアが見てくれています。アシュアはさっきヨクのオフィスに向かいました。待っていると思います。」
ヨクはもう一度ケイナをちらりと見た。やっぱり彼は無反応だ。
「あと一時間くらいしたらカインを起こしてやって。2時の会議は予定通り行いたいから。」
彼はそう言うと出て行った。
ティは小さなため息をついてケイナに目を向けた。
「コーヒーでも淹れましょうか。」
ケイナは俯いたまま何も言わなかったが、ティは席を立った。
しばらくして彼女は2人分のカップを持って戻ってきた。
「あなたはもっと休まなくても良かったの?」
彼の前にカップを置いたが、ケイナはやはり何も言わなかった。
置かれたカップに目を向けることもない。
「顔色があんまりよくないわよ。」
「12ページが抜けてるよ。」
ケイナは顔をあげずに言った。ティはうなずいてデスクの前に座り、モニタに向き直ってくすりと笑った。
「軍服の人に事務処理を手伝ってもらうのって、あんまりない経験よね。」
彼女の言葉にケイナも少し笑った。
「銃持って、体張ってるだけが軍人じゃないよ。」
ティはケイナを振り向いた。
「クルーレだって半分は机にしがみついてるはずだ。」
彼の言葉にティはさらに笑った。クルーレのあの大きな体がデスクの前にあることを想像すると、少し可笑しかった。
そして再び口を開いた。

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