18.顔(2)

「ねえ?あなたとクルーレさんは古くからの知り合いなの?」
ケイナが初めて顔をあげた。彼の視線を真正面から受けて、ティは慌ててかぶりを振った。
「あ、違うんだったらいいの。」
青い瞳にちょっとどぎまぎした。
「なんだか、ちょっとそういう気がして。」
ケイナは何も言わずに目を逸らせた。
しばらくふたりとも無言だったが、ケイナがいきなり口を開いた。
「あんた、不思議な人だね。」
ティはびっくりしてケイナを振り向いた。ケイナは書類を見つめたままだった。
「なあに?どういうこと?」
首をかしげると、ケイナは顔をあげないままかすかに笑った。
「なんでそんなに人のことに首を突っ込みたがるの?」
ティがきゅっと口を歪めて顔をそらそうとすると、ケイナが紙を突きつけた。
「なに?」
怪訝な顔をして受け取ってみると、紙にはびっしりと文字が書き込まれていた。
「あんたほうが疲れてるみたいだ。」
ティは連なった文字を見たあと、思わずケイナの顔を見た。
「ミス部分。スペル違いまであるよ。」
ケイナは紙を顎でしゃくって言った。
「あなたって不思議な人ね。」
ティはゆるくかぶりを振った。
「ほんとに18歳?」
ケイナがむっとして紙を取り上げようとしたので、ティは身を反らせた。
「冗談よ。」
彼女はくすくす笑った。
「そういうところはまだ子供なんだから。」
ケイナがコーヒーのカップを持ったまま立ち上がったので、ティは彼を見上げた。
カインのオフィスに戻るつもりなのかもしれない。
「ありがとう。」
ティはケイナの後ろ姿に声をかけた。
「手伝ってもらって助かったわ。」
ケイナはちらりと振り返って何も言わずに出て行った。
その後、ケイナの姿が消えたことに気づいた者は誰もいなかった。
数時間後、彼の姿がカンパニーのどこにも見えないと分かったとき、ティは自分のオフィスに彼を招きいれたことを後悔した。
ケイナは、ティがコーヒーを淹れにいったわずか数分の間に彼女のプラニカのキィをデスクから取り、システムにアクセスして彼女自身が車庫から出したように見せかけ、それに乗って消えていた。

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