17.Hands feel to know(1)

手に乗せていた顎がかくんと滑り落ちて、カインははっとして目を開けた。
いつの間にかうとうとしていたらしい。
連絡を受けたクルーレがやってきて、警護を強化するから休めと言われたが、ケイナのことが気になって横になることができなかった。
それでもティだけは部屋に返した。
ヨクは何度言っても一緒にいると言って聞かなかった。
しかしその彼も、しばらくすると腕を組んで座ったまま、顎が胸につきそうなくらいがっくりと首を前に倒して眠り込んでしまった。
昨晩もほとんど眠っていないような状態だったから、かなり疲れていたのだろう。
今はもう座った状態から肘掛に頭を預けて横になってしまい、ぐっすり寝入っている。
かすかにいびきの音が聞こえた。
カインは立ち上がってケイナのベッドから毛布を持ってきて彼にかけてやった。
時計を見ると午前4時だった。
ケイナが出て行ってから4時間近くにもなる。
いったいどうしたのだろう。
クルーレがエアポート付近で銃を使った痕跡があると言っていた。
しかし警備の人間が行くとそこには誰もいなかったらしい。
小さなデスクに向かい、モニタを開いた。
何か連絡があればこっちに転送されるはずだ。
その処理だけは行えた。
コンピューター自体に損傷はなかったから、必ずこっちに連絡が来る。
「ケイナ…。」
カインはモニタの前でつぶやいた。
行かせるんじゃなかった。
彼にもしものことがあったらどうすればいいだろう。
手に額を埋めたとき、いきなり通信音が鳴ってカインは弾かれたようにモニタにしがみついた。
「ケイナ!」
しかし、予想に反して画面に映ったのはアシュアだった。
「アシュア…。」
「連絡が遅くなって悪かったよ。…ケイナは…一緒にいる。」
「一緒に?」
なぜケイナがアシュアと?カインは目を細めた。
「ケイナがおれのことを呼んだんだ。」
アシュアは答えた。
「それでケイナは?」
そう尋ねると、アシュアはちらりと視線をそらせ、再びこちらを向いた。
「大丈夫。」
カインはほっと息を吐いた。
「…そっちも大騒ぎだったみたいだな。すまなかった。」
アシュアの口調が固い。カインは少しためらったあと口を開いた。
「アシュア、『ノマド』は…どうだったんだ。」
それを聞いてアシュアは目を伏せた。
「なかったんだ。」
「え?」
「コミュニティがなかったんだ。移動したみたいで…。」
「移動…?」
移動って、どういうことだ。
カインは呆然としてアシュアの顔を見つめた。
「コミュニティには行ったんだけど、もぬけの殻だったんだ。すまん。…おれたち、帰れなくなった。」
カインは言葉を失った。
『ノマド』が移動した?アシュアとリアを残して?
そんなばかな。
立て続けに起こる事態に頭が混乱しそうになった。

NEXT>>TOP