3.狙撃(1)

ユージーは黒い軍機でエアポートに着陸すると、相変わらずの全身黒づくめの姿を見せ、カインに笑みを浮かべて片手をあげてみせた。
彼は決してスーツは着ない。いつも軍服だ。
今となっては彼がスーツ姿になるほうが違和感があるかもしれない。
「わざわざ来てもらってすまなかったな。」
ユージーが差し出す手をカインは握り返した。
彼が降りたあとから数人の兵士が降りてくるのが見えた。やはりユージーも護衛をつけているらしい。
ユージーはカインの後ろのアシュアの顔に目を向けた。
「久しぶりだな。元気そうじゃないか。」
「それだけが取り柄なもんで。」
アシュアは笑ってユージーの差し出した手を握り返した。
「セレスの様子はどうだった?」
ユージーの言葉にカインはうなずいた。
「だいぶん覚醒に近づいているようだった。完全に覚醒するにはあともう少し時間が必要だけれど、確実らしい。」
「そうか。」
ユージーは顔をほころばせた。
「良かった。」
一見、近寄りがたい雰囲気に見えるユージーだったが、こういう時に本当に嬉しそうな表情をするのが彼のいいところかもしれない。
「『アライド』のケイナはどんな調子です?」
カインは尋ねた。
「安定してるよ。」
ユージーは笑みを浮かべたまま答えた。
「あいつもほんの少しだけれど覚醒の脳波が出ることがあるらしい。」
「じゃあ…」
(どうして、連絡がしばらくなかったんです?)
そう尋ねようとしてカインは戸惑った。ユージーの表情にあまりにも緊迫感がない。
そのことが逆に尋ねることをためらわせた。
「一度ケイナに会いに行ってみようと思っているんですが…」
カインがそう言うと、そこで初めてユージーの顔にかすかな変化が見えた。
ほんの一瞬だが、彼は口を引き結んだ。
「何か?」
彼の目を覗きこむようにして尋ねるカインに、ユージーはすぐに元の表情に戻った。
「いや、いいと思うよ。」
ユージーはそう答え、カインの顔を見た。
「だが、ケイナは以前とは違うぞ。」
「それは分かってます。一度、ケイナの姿を映像で送ってもらいましたから。」
ケイナの姿を見たのはもう一年半も前だ。
以前の自分の体の一部と同じように機能する義手に義足、それに義眼がつけられたケイナは、当時はその部分は黒いプロテクターに覆われていた。
顔の上半分も覆われていただろう。形のいい鼻と薄情そうな唇、そして金色の髪でケイナと判別できた。
でも、映像ではどうしてもできないことがある。
それは実際に彼に触れることだ。
セレスに触れたときのように、ケイナに触れればもしかしたら彼からもメッセージが届くかもしれない。
セレスはそのために自分にメッセージを送ったのかもしれない。
カインはそう考えていた。
「ユージー…」
さらに言い募ろうとするカインをユージーは手で制した。
「分かってる。どうして半年間連絡がなかったかと聞きたいんだろう?」
カインは息を吐いた。
「ええ。すみません。」
「機に入って話をしよう。ちょっと渡したいものもあるんだ。」
ユージーはそう言いながら、胸のポケットに手を差し入れながら軍機のほうに向き直った。
黒い軍仕様のジャケットの下に防弾服の濃いグレイの色がちらりと見えた。

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