3.狙撃(2)

ユージーも防弾服を身につけているんだな。そう思ったとき、ポケットから抜いた彼の手について、白い小さな紙がひらりと地面に落ちていった。
ユージーがそれに気づいて向き直ったが、カインのほうが先に拾おうと身をかがめた。
そのとき、ぽつりとカインの頬に水滴が落ちた。
『雨?』
そう思って、ここはドームの中だと思い直すのはほんの一瞬のことだっただろう。
紙を拾って身を起こす前にどっと自分の背に何かが崩れ落ちてきて立ち上がれなくなり、カインはびっくりして両手を地面についた。
「カイン!!」
アシュアの叫び声が聞こえても何があったか分からなかった。
次の瞬間、自分の首筋から頬を伝って赤い水がたらたらと地面に流れ落ちてきた。
カインはやっと何が起こったかを悟った。
全身の力を振り絞って身を起こすと、自分に覆いかぶさるようにして倒れたユージーを必死になって抱えた。
だが、あっという間にアシュアの腕ではがいじめにされ、彼から引き離された。
「ユージーを早く病院へ運べ!」
ものすごい勢いで軍機から離され、建物の影に引きずられながら、頭上でアシュアがほかの兵士たちに怒鳴っているのをカインは聞いた。

ユージーが…撃たれた…?

ようやくカインの頭に事態が明確な言葉となって浮かんだが、それでもまだ白いもやの中でやみくもに手を振り回してもがいているような混沌とした状態だった。
「動くなよ!」
アシュアが自分に覆いかぶさるようにして怒鳴っていたが、その声もどこか遠くから聞こえているようで、カインは返事をかえすことができなかった。
濡れた感じのする首に手をやると、禍々しいほど赤い血が手のひらにべっとりとついた。
アシュアが呻き声をあげながら大きな手でカインの頭と首を掴む。
必死になって傷を調べようとしているようだ。
「ち、違う…。」
カインは搾り出すような声でようやく返事をした。
「違う。ぼくは大丈夫だ。心配…ないよ…。」
アシュアがほっと安堵の息を漏らした。
ユージー…。ばかな。ユージーが撃たれるなんて。
彼はそんな無防備な人間じゃない。離れた場所からだって彼は銃口を感じることができるはずだ。
「ここにいろ。動くなよ。絶対に!動くなよ!」
アシュアはきっぱりとそう言うと、まだ地面に倒れたままのユージーに駆けていった。
騒然とした中で救急のサイレンが鳴り響くのを聞きながら、カインは上空に目を走らせた。
カチカチという音が鳴る。
いったい何の音だろうと耳を澄ませて、それが自分の体が震えて歯が鳴っていることに気づき、慌てて手で顔を押さえた。
その手も途方もなく震えていた。
どこだ…。彼はどこから狙われた?
カインは歯を無理やり食いしばると再び目をあげた。
ゲートを取り巻く建物のどこかに必ずそいつがいるはずだ。
まだ時間はたっていない。そいつは建物の中にいる。
ユージーは防弾服を身につけていた。
そのわずかな隙間を狙って撃つにはそんなに離れた距離ではない。
いや…。
カインは襲いかかる不安に眩暈を感じた。
そもそもそんな狙撃ができるものなのか?

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