14.天の青(1)

「もう8時か。今日はこのへんにするか。」
ヨクは顔をあげて言った。
カインと6時くらいから仕事の打ち合わせを始めて、すでに2時間がたっていた。
「腹が減った。メシはどうする?」
お腹をさすりながら言うヨクに、カインは苦笑した。
「さっき、ティが運んできたサンドイッチをつまんだじゃないか。」
「あれはメシじゃないよ。間食。」
お皿に盛られた小さなサンドイッチの3分の2は彼が食べたのではないだろうか。
カインは呆れたように首を振りながら書類をまとめるとソファから立ち上がった。
「ちったあ、まともに食べる癖をつけたほうがいいぞ。」
その背にヨクの声が追いかけてきた。
自分がほとんど食べたくせに…。よく言うよ。
カインはちらりと彼のほうを見た。
「社員用のレストランはもうとっくに閉まってるよ。」
そう言ったあと、彼が足を痛そうに押さえたので、ヨクは目を細めた。
「まだ痛むのか?」
「昨日の今日だからね…。たまに痛む程度だけれど。」
カインは足をさすりながらデスクの椅子に座り、ティが入ってきたので視線をそちらに向けた。
「すみません、最後の報告書です。これは明日以降、見ていただければいいそうですので…。」
「まだ帰ってなかったのか。」
ヨクが言うと、ティは曖昧に笑った。
「わたしもいろいろ仕事が残ってしまって。」
「カインが心配なだけじゃないの?」
ティはヨクを睨むとかすかに顔を赤らめた。
「ティ。」
カインは彼女が置いた報告書をとりあげながら言った。
「明日、クルーレにユージーへの面会を申し込んでみてくれないかな。」
「カートに行くのか?」
ヨクが聞きつけて目を剥いた。
「外出は気をつけないと…。」
「ケイナも一緒だ。」
カインはヨクの言葉を遮って言った。
それを聞いてティがかすかに眉をひそめたが、カインは気づかなかった。
「ユージーに直接連絡してみたけれど、繋がらなかった。やっぱりまだクルーレを介さないとだめらしい。」
カインは書類から顔をあげるとヨクに目を向けた。
「…どう思う?」
カインの言葉にヨクは首をかしげた。
「さあなあ…。とりあえずリィへの疑いは晴れたような気はしたけれど…。」
「疑い?」
ティが思わず口を挟んだ。
「クルーレさんがリィを疑っていたっていうんですか?」
「クルーレじゃなくて、カートとしてだろう。まあそれが普通だよ。状況的に疑われてもおかしくない。」
カインの言葉にティは戸惑った。
カートがリィを疑っていた?クルーレはそんなそぶりは一度も見せなかった。
いや、自分がそう思っていなかっただけか。
「でも、クルーレさんはいろいろ尽力してくださってるわ。リィは何も後ろめいたことはないでしょう?」
「何が言いたいの?」
カインはティを見上げた。
彼の鋭い目にティは思わず顔を伏せた。
「…いえ…なんでもないです。」

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