14.天の青(2)

「まあ、ケイナをこっちに寄越したし、ユージーの復帰も宣言した。それはリィがカートの敵ではないと分かってのことなんだろうけれど、おれたちはずいぶん前から怪しまれていたんだというのはよく分かったよ。」
ヨクは手に持った書類を弄びながら言った。
「『ゼロ・ダリ』の買収計画を話したときから、こっちの表情や出方を相当探っていたんだろうな。ケイナがあんまりはっきり言うからひやっとした。あの子はちょっと…怖い子だね。」
彼の言葉にカインは苦笑した。
「あの場であんなふうに言うか、って感じだけど…。ただ、もうクルーレからは情報は出ないだろう。だからユージーに会ったほうがいいと思うんだ。ケイナはユージーとは兄弟なんだし、彼が会いたいって言ってるって言えばクルーレも断る理由が見つからないだろう。それに乗っかるよ。」
「兄弟なんですか?」
カインの言葉にティが声をあげていた。
「カート社長と?」
カインは少しびっくりしたような顔でティを見た。
「そうだよ。血は繋がってないけど…。ケイナの姓はカートだ。」
「知らなかったわ…。」
ティはつぶやいた。
「だからクルーレさんは彼があんなふうに言っても怒らなかったのね。」
「怒る理由がないよ。警戒はしただろうけど。」
カインはため息をついた。
「ユージー・カートは話してくれるかな。」
ヨクが言うとカインは小さくかぶりを振った。
「さあ…どうかな…。カートの内紛だったら彼もリィを巻き込みたくはないだろう。でもプロジェクトが絡んでいて、こっちも命が狙われているんだったら、知っていることを教えてもらう必要はある。」
「わたし…」
ティがつぶやいたので、カインは彼女に目を向けた。
「わたし、ケイナにひどいこと言っちゃったかもしれないわ。最初にここに来たときに、クルーレさんにあの態度はひどいんじゃないのって怒ってしまったの。」
カインとヨクは思わず目を見合わせた。
「ケイナはそんなことをいちいち気にしないよ。」
カインは少し笑ってティに言った。
ヨクの顔をちらりと見ると、彼は少し眉をつりあげてみせた。
いろんな人間と接してきた彼のことだ。
ケイナがどういう性格なのかもすでにそれとなく察していたのだろう。
「クルーレにユージーへの正規のアポイントを申し込んでください。」
カインの視線を感じてティはうなずいた。うまく言えるかどうか、すっかり自信をなくしていたが、カインの命令なら拒否はできない。
「クルーレがごねたらこっちに回して。」
カインは笑みを浮かべてティに言った。
ティがオフィスを出て行くのを見送ったカインは、頬杖をついてため息をついた。
「後ろめたいことね…。」
彼はつぶやいた。
「リィは後ろめたいことだらけじゃないか…。」
「カイン・リィが経営者であるんだから、そういうことはないと思っているんだろ。」
ヨクは笑って答えた。
「秘書としてはそれが一番だよ。」
カインは頬杖をついたまま、ヨクの顔をじろりと見た。
「そのうち、きみから教えてやりなさい。社長としてはそれが一番。」
まったく…よく言うよ。
秘書の教育はあんたの役目だろう。
カインは顔をしかめた。

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