13.ミステイク(1)

大慌てで駆けつけたヨクに連れられて、ビル内の病院で手当をしたあと、オフィスに戻ったカインはドアのところで思わず立ちすくんだ。
ずらりと並んだ顔。
ケイナ、アシュア、リア、ブラン、ティ、そしてアンリ・クルーレ。
どうしてクルーレまでがここにいるのだろう。
しばらくして、ケイナとアシュアを迎えに行ったのがクルーレ自身だったのだと思い当たった。
「ご無事でなによりです。」
ヨクに手を貸してもらいながらソファに腰をおろすカインにクルーレは言った。
「あなたがわざわざケイナとアシュアを?」
カインが尋ねるとクルーレはうなずいた。
「カート社長の命令ですから。」
「カート社長は意識を回復したのか?」
ヨクがびっくりしてクルーレを見た。クルーレはヨクの顔に目を向け、それから呆然としているカインに再び視線を戻した。
「リィ社長、黙っていて申し訳ありませんでした。ユージー・カートはもうだいぶん前に復帰しています。」
「…いつ?」
「意識を回復したのは、撃たれて1週間後です。左目の視力が若干落ちたのと、まだ歩行に難がありますが、1ヶ月ほどで復帰されました。」
ユージーが復帰した…。
カインはほっと息を吐いた。
「良かった…」
「あなたのそういうところにカート社長も惚れこんでいるんでしょうね。」
怪訝そうに自分を見るカインに、クルーレはかすかに笑みを浮かべた。
「カート社長はよくあなたの話をします。普通なら、まず真っ先に、なぜ黙っていたと怒ってもおかしくない。」
「おれは腑に落ちてないよ。」
ヨクは不機嫌そうに口を挟んだ。
「どうして今まで知らせてくれなかったんです?」
クルーレは彼に視線を移した。
「復帰を対外的に口にしたのは、ここが初めてです。今はまだ『A・Jオフィス』も、『ゼロ・ダリ』も、もちろん世間も知らない。」
「どうして『A・Jオフィス』にまで…。」
ヨクはつぶやいたが、クルーレはそれには答えず、カインに視線を戻した。
「あなたを襲った男、あなたはどうご覧になりますか?」
「どうって…」
クルーレの言葉にカインは視線を泳がせ、自分の両手に巻かれた包帯に目を向けた。
両方の手の甲に長さ10センチほどの焼け跡、右足にも肩にも同じような跡があった。
皮膚をえぐりとられたような傷だったが、薬を塗れば1ヶ月程度で完治する。
キイボードを打つときに多少支障があるだろうが、化膿止めと痛み止めを服用しながらだと、日常生活は何とかこなせるだろう。
とはいえ、同じような傷を体中につけまくられていることが苛立たしかった。
「…こっちに決して近づいて来ない。ぼくの狙える距離を知っているみたいだった。そのくせ向こうは遠くからピンポイントで狙ってくる。…楽しそうに笑っていた。ケイナと同じ顔で。自分のこともケイナだと言っていた。」
クルーレには目を向けずにカインがそう答えると、それを聞いたティが身を震わせたので、リアが彼女の肩を抱いてやった。
「同じ顔で…ね。」
クルーレがちらりとケイナを振り返ると、ケイナは不機嫌そうにかすかに顔をしかめた。
「腕はたいしたことねぇよ。」
ケイナはつぶやいた。
カインが目を向けると、彼は壁に背をもたせかけ、両手をポケットに突っ込んで仏頂面で床を睨みつけていた。
ケイナの姿をじっくり見るのはこれが初めてかもしれない。
痩せて髪が短くなっているが、7年前の彼とあまり変わらないように見えた。むしろ、痩せた分だけ前より顔つきが精悍な感じになったかもしれない。
義手義足という手足も、服で覆われているとはいえ、言われても疑問を感じるほど、全くそれと分からない。
そう…あいつの髪は長かった。今のこのケイナではない。
7年前のあのときのケイナの姿だった。
「あれはたぶん銃の性能だ。銃だけでなけりゃ、腕が覚えていくのかもしれない…。」
ケイナは視線を床に向けたまま言った。
「腕が覚える?」
カインは目を細めた。ケイナは肩をすくめてカインをちらりと見た。
「おれと同じ、つくりものの腕だってこと。」
「義手?まさか。」
思わずそうつぶやいたが、根拠があったわけではない。

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