2.グリーン・アイズ(2)

エレベーターで地下のパーキングまで降りると、カインはアシュアに5番車庫の扉を指し示した。
ここに降りてくる間にカイン自身を察知してプラニカが最も近い車庫まで運ばれてくる。
カインはプラニカの運転はできるが、アシュアといるときはいつも彼に運転を頼む。
どうやらカインはプラニカよりもバイクの運転のほうが性に合っているらしかった。
アシュアはプラニカに乗り込んで横に座るカインのほうをちらりと見た。
「なあ、カイン。」
「なに。」
カインはこちらには目を向けず生返事をする。
アシュアはほんの束の間言おうか言うまいか迷ったが、思い切って口を開いた。
「あのさ、おまえ、人を好きになることを怖がってないか?」
「え?」
唐突なアシュアの質問にびっくりしてカインは彼に目を向けた。
「いや…何となくそんな気がして。」
プラニカは滑るようにパーキングを出ると、地下のハイウェイを走り出した。運転席で前を見つめながらアシュアは言葉を続けた。
「ケイナとセレスのことが気になっているのは分かるけれど、あいつらはまだまだこれからたくさんの時間が必要なんだ。その前におまえが自分のことを考えても、あいつらは別に怒ったりしないと思うぜ。」
カインはその言葉を聞いてかすかに眉をひそめた。
前を向いているアシュアはそれには気がつかない。
「そりゃ、もともとの原因は確かにカンパニーにあったかもしれないけど…」
「ティのことを言ってるの?」
カインはアシュアの言葉をさえぎった。声に少し怒気を含んでいる。
アシュアが慌ててカインの顔に目を向けると、彼はうんざりしたように小さくかぶりを振った。
「ティはいい子だよ…。頭もいいし、秘書として優秀だ。でも、だからってそれが恋愛感情につながるかどうかは別問題だろ。」
「んん、まあ、お互いの気持ちってのはあるだろうけどさ…。」
アシュアは指で鼻の頭を軽く掻いて苦笑した。
「でもさ、ふたりとも傍目で見ていても悪い雰囲気じゃないんだけど。」
「仕事のパートナーが険悪ムードだったらシャレにならないだろ。」
カインは不機嫌そうにそう言うと、地下のハイウエイの天井で光のラインを引きながら後ろに流れていくライトに目を向けた。
「ヨクもおまえも、揃って煽るようなことばかりして…。はっきり言って迷惑なんだよ。」
「迷惑なんだ?」
アシュアは思わずカインの顔を見た。
「じゃ、彼女はおまえにとってそういう対象じゃないってこと?」
「アシュア。」
カインの語気が鋭くなった。
「この話題、やめないか。」
ぴしゃりと言われてアシュアは口をへの字に歪めるとしかたなくうなずいた。

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