4.ノマド(2)

大まかなことは画面越しにリアには伝えてあった。
たぶん公の情報だけだと混乱すると思ったからだ。
「ケイナもあと一週間くらいで目覚めるんだって?」
アシュアがびっくりしてリアの顔を見ると、彼女は肩をすくめた。
「夢見たちが言ってた。セレスはもう少しかかりそうね。」
「一週間なのか?おれが聞いたときはまだ分からなかったのに。」
「ほぼ確実みたいよ。リンクが大急ぎで受け入れ準備してる。」
ふたりでテントのひとつに入りながらリアは答えた。
「なんだかいろんなことがいっぺんに起こっちゃったね。」
リアの言葉を聞きながらアシュアはため息をついて椅子に座った。
リアはポットに入れているお茶をカップに注ぐと、アシュアの前に置いた。
「ユージーは時間かかるけど、大丈夫だって夢見たちが言ってたよ。」
アシュアの前に座りながらリアは言った。
「でもね、ケイナがすごく怒ってるって。」
「ケイナが?」
アシュアはカップを口に運びかけていた手を止めてリアの顔を見た。
「なんで?ケイナはまだ目覚めてないぞ?それに、あいつもセレスも目覚めてから記憶がどれくらい残っているかわからないのに。」
「うん…。」
リアは小首をかしげた。
「でも、夢見たちがそう言うんだもの…。」
「そこまで分かるんなら、ユージーを撃ったやつって分からないわけ?犯人がまだ捕まってないんだよ。」
「あのさ。」
リアはしかたないわねというようにアシュアの顔を見て身を乗り出した。
「ケイナやユージーのことが夢見たちに分かるのは、あたしやアシュアが彼らに直接会ってるし、触れてるからよ。」
アシュアは不思議そうな顔をしてリアを見つめた。リアは口を尖らせた。
「よく考えてみてよ。トリだってそうだったでしょ?見てもいない、会ってもいない人のことは分からないわよ。分かったとしても漠然としたイメージでしか見えないわ。」
「そうだったかな…。でも、夢見たちは直接ケイナやユージーに会ってないだろ?」
「だから…」
リアは腕を組んで子供に言い聞かせるような表情になった。
「あたしやアシュアが知ってるからだって言ってるじゃない。」
アシュアはまだきょとんとしている。
「あたしも自分が見えるわけじゃないからよくわからないけど、あたしやアシュアを介して夢見たちはケイナやユージーを見てるのよ。たぶんあたしたちに気配が残ってるのかもしれない。」
「ふうん…」
アシュアは音をたててお茶をすすった。
「じゃあ、犯人のことは何も言ってないの?」
「少しだけだったらしいけど、すごく凶暴なイメージが浮かんだって言ってた。真っ赤な火みたいな。」
リアは答えた。
「火…?」
アシュアは眉をひそめた。
「カインは倒れる前にケイナによく似たやつに会ったって言ってたんだ。火っていうのは、どういうことなのかな…。」
「わたしにも分からないわ。直接夢見たちに聞いてみたら?」
「うん…。」
どうも気持ちがざわめく。
アシュアは口を引き結んで視線を泳がせた。

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