24.わたしを呼んで(2)

夜も更けた頃、ケイナは自室のベッドに寝転がってぼんやりと考え込んでいた。
どんなに銃の使い方を教えてもらったところで、今まで銃を持ったこともないヨクが咄嗟の場でそれを使うことができる可能性はゼロに近いだろう。
構えるところまではできたとしても、引き金を引くことはできないはずだ。
あいつが目の前に来たらあっという間に撃たれてしまう。
つまり、どうしたってヨクのガードは自分かアシュアがすることになる。
クルーレは、途中でヨクとアシュアを入れ替わる案を出した。
どこかで入れ替わってヨクが単独で行動するシチュエーションを作る。
体格の似ているふたりだと入れ替わることは可能かもしれないが、そんな小細工にあいつがひっかかる可能性は低いかもしれない。
でも、待っていても何も解決しない。
ユージーはできる限りのことをしているが、警備を強化するのも限界がある。
できるだけ早急に何らかの動きを出さないと、リィ・カンパニーは破滅だ。
左手に握っていたノマドの剣の柄を持ち上げた。
闇の中でも自分の頭の中にはその刃を感じることができる。
剣はあいつを覚えただろうか。
あいつの新しい腕が前よりも強かったら、剣が覚える力を制限時間内に発揮することができるのだろうか。
(ケイナ。)
ハルドの声が頭の中で響く。
(躊躇するな。)
ケイナは目を閉じて剣を握ったままの腕をぱたりと倒した。
あいつは誰の意思で動いているんだろう。
おれの周りにいる人を狙うのは、ハルドさんの意思なのか。それともあいつ自身なのか。
クルーレの言うように、もともとのあいつの役目はプロジェクトに関わっていた主要な人間を殺していくことだっただろう。
ティを襲ったときには、まだバッカードもエストランドも生きていた。
おれを直接狙ったときもそうだ。
いつ、あいつはハルドさんの意識になっていたんだろう…。
まだ気持ちがぐらつく。
ダフルを殺されて、憎くてしようがなかったのに、迷いが沸き起こる。
誰かが死ねばそれで丸く収まるなんて、そんな理不尽なことがあっていいはずがない。
どうすればハルドさん自身を取り戻すことができるんだろう…。
ふと、人の気配を感じて身を起こした。
誰か来た?
耳を澄ませた。かすかな音が聞こえる。ベッドから下りて立ち上がると、そっと寝室のドアの前に立った。
外のドアじゃない。もう部屋の中に誰かいる。
ノマドの剣を握りなおし、寝室のドアを開きざまに腕を振り上げた。
「きゃーっ!」
聞き覚えのある声が響いた。
「やめて、やめて、やめて、やめて、あたしーっ!」
リア?ケイナはびっくりして腕をおろした。
「なんだよ…。」
思わずつぶやいた。
「どうやって入ってきた?」
暗がりの中に、両手を顔の前にあげていつもの泣き出しそうな顔をしているリアの姿があった。
「だから嫌だったのよう、ケイナの部屋に入るなんて…。」
リアは顔を歪めてそう言うと手をおろし、ケイナの顔をこわごわ見上げた。
「ケイナ、ごめん、怒らないでね。」
ケイナは訝しそうにリアを見た。
「絶対怒らないでね。」
「だから、なんだよ…。」
リアは弱りきったように目を伏せた。
「ごめんね、ダイがロックを開いちゃったのよ。あの子たちがどうしてもって言って聞かなくて…」
「はっきり言えよ!」
ケイナは思わず声を荒げた。
「やっぱり怒ってる…」
ケイナは口を引き結んだ。
ダイがロックを外しただと?子供に外れるロックかよ。カインが知ったら仰天するぞ。
リアは観念したように目をぎゅっと閉じると、後ろを振り返った。ケイナはその視線の先を追った。

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