23.遊び(2)

「シャワーを浴びさせて…出て来たと思ったらすぐ寝室に入っちゃって。」
部屋に入るなり顔を巡らせるカインを追いすがるようにしてティは言った。
カインは椅子の背にかかっているケイナの上着に気づくと、立ち止まってしばらくそれを見つめた。
「全身血まみれだったの。怪我はしていないようなんだけど…これ、どうしたの?」
ティは不安そうにカインを見上げた。カインは彼女の顔をちらりと見た。
「ダフル・クルーレが亡くなった。」
ティはそれを聞いても理解できないようにカインの顔を見つめたままだった。
「クルーレの息子だよ。一緒に行動してたみたいだ。」
「一緒に…?」
ティは呆然として上着に目を向けた。
では、これはクルーレの息子の血なのか。
カインは口を引き結んだ。
「明日、軍の式があるけど…リィのほうからは誰も来ないほうがいいと言われた。公の場は危険だからと。」
「…わたしを襲ったあの人なの?」
「そう。それとぼくをね。」
ためらいがちに尋ねるティにカインはそう答えると寝室に向かった。
ノックしたが応答はない。
「ケイナ。」
やはり返事はなかった。カインはそっとドアを開けた。
「ケイナ?」
中を覗き込むと、暗い部屋の床に脱ぎ捨てられたバスローブとタオルが落ちているのが見えた。
とりあえず部屋着だけは身につけているものの、半ば倒れ込むような格好でケイナはベッドに横になっていた。
「ショックで別人格を作るよりましか…。」
カインは寝息をたてるケイナの顔を見てつぶやいた。
人の気配には人一倍敏感なケイナが、寝室に人が入って来ても飛び起きない。
よほど憔悴したか、それとも、帰ってきて安心したのか…。
ユージーが連絡をくれたのは正午あたりだった。
それから8時間以上も、飲まず食わずでいったい何をしていたのだろう。
彼が何かを握っていることに気づいて、そっと左手を動かしてみた。
ハルドのブレスレットがちらりと見えた。

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