19.身代わり(2)

「バッカードは外出中だな?」
クルーレが振り向くとダフルがうなずいた。
「そうです。もうそろそろ帰ってくる頃かと。」
ダフルは窓に近づいて、クルーレの横から顔を突き出して窓の外を見た。
「週に2回ほどなんですが、どこに行くでもなくぶらぶら歩きまわって帰ってきます。暇つぶしなんでしょう。」
「誰がつけている?」
クルーレが尋ねるとダフルは肩をすくめた。
「ノブとヨハンがつけてます。上と下とを交代でやってて。今日はぼくが上の番。」
ダフルは指を上下させて言った。
クルーレは眉をひそめて息子をちらりと見て、また目を外に向けた。
息子だからという理由なのだろうが、受け答えにいちいちチェックを入れたくなる自分を抑えているようだ。
「つけてるってことは、軍服以外の着るものがある?」
ケイナはダフルに尋ねた。
「ありますよ。ジャケットとブーツだけですが。」
ダフルは答えた。ケイナがクルーレの顔を見ると彼はうなずいた。
「それを貸して欲しい。」
ケイナが言うと、ダフルはうなずいてすぐに灰色のライダース風のジャケットとブーツを持ってきた。
ケイナは帽子を取って手早くそれを身につけた。
帽子をとって彼の顔が見えたとき、ダフルともうひとりの兵士が少しびっくりしたような顔になった。
軍服を着ているのに、帽子を取った下から全く軍人らしくない顔が出てくるとは思いもしなかったのだろう。
「ノブとヨハンに連絡しろ。ケイナがバッカードとコンタクトをとる。手を出すなと。」
クルーレの言葉にダフルは目を丸くした。
「コンタクトを?」
「姿が見えた。早くしろ。」
クルーレの声にケイナは窓の外に目を向けた。
「あの背の低い男がバッカードだ。いいか、くれぐれも姿を見せるだけにしろ。それ以上はだめだ。」
クルーレの指す方向を確認すると、ケイナはエレベーターに向かって身を翻した。
「あ、待って。」
ダフルが声をあげた。ケイナが振り返ると手元に小さな通信機が放り込まれた。
「マイク、オンにして接触してください。それと、イヤホンは耳の奥に。」
ケイナがうなずくと、ダフルはすぐに手元の通信機に目を向けた。バッカードをつけている者に連絡を入れるのだろう。さっきとはうって変わった真剣な表情だった。
ケイナがエレベーターに消えたあと、ダフルはクルーレの顔を見た。
「彼、目立ちすぎますよ。いいんですか。」
「バッカードにコンタクトすることに関して言えばそのほうがいいだろう。」
クルーレは答えた。
「なぜ、彼がバッカードにコンタクトを?」
「あのバッカードは本人じゃないと言っている。」
「まさか。」
ダフルは目を細めた。
「あの馬面、どこをどう見たってバッカードでしょう。」
「本人じゃないと分かった時点で確保だ。いいな。」
クルーレの言葉にダフルはうなずいて、その指示を伝えるために通信機に再び目をやった。

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