15.裏切り(1)

ティはふと目を覚ました。
暗い…。ここはどこだろう。
起き上がって周囲を見回した。
うっすらとした光の中に見える光景は自分の部屋ではない。
サイドテーブルに置かれた小さな銀色の置き時計には覚えがあった。
カインの寝室にあったものだ。
時計を持ち上げて時間を見ると、午前3時半だった。
薬が効いて記憶がなくなった時間を覚えていないが、自分はカインの部屋に運ばれてそのまま眠っていたらしい。
胸元に目を落として、自分のものではない部屋着に変えられていたのでびっくりした。
そしてそれがリアのためにそろえたものだと思い出してほっとした。
きっと彼女が着替えさせてくれたのだろう。
着ていた服はベッドの隅にきちんと畳んで置いてあった。
カインはどうしたのだろう。ティはベッドからそっと抜け出した。
寝室から出ると、ぼんやりしたリビングの光の中でソファに横たわっている人の影を見つけた。
カインは毛布にくるまって寝息をたてていた。
自分がベッドを占領してしまったからだと悟ってティは悲しくなった。
起こしてベッドで寝るよう言ったほうがいいだろうか。
それともそのまま寝かせてあげたほうがいいだろうか。
彼の寝顔を眺めながら、額に垂れかかった彼の髪をそっと指先でなでた。
ごめんね、カイン。心の中でつぶやいた。
ふと、小さな音に気づいてティは顔をめぐらせた。
コンピューターが作動しているかすかな音が聞こえる。
カインはいつもサブの電源を落とすことはない。それでも音は待機電源で動いているような音ではなかった。
何か作業しているくらいの音だ。
音として認識されないくらいのかすかなものだったが、部屋が静かなのと、ティ自身が日ごろマシンの前で仕事をしているので、空気の気配で何となく分かった。
カインのデスクから聞こえてくる。
ティは立ちあがると、そっと彼のデスクに近づいた。
モニタは消えている。キィボードも動いていない。
しばらくためらったのち、手を伸ばしてモニタのスイッチを入れてみた。
ほんのかすかな音をたてて薄いモニタの画面が開いた。
暗い部屋の中でモニタの周辺だけが灯をともしたように明るくなった。
彼女はそれをじっと見つめた。
やっぱり何か動いている。カインは座っていないのに。
確認のためにキィを叩いた。
何の操作をしているの?
小さなウィンドウが開いて情報を移動させているゲージが出た。
何の情報?
ティはキィを叩いた。
リィの上層部のスケジュールだ。
それが自分のオフィスのデスクからカインのマシンに送られているのを知るまでに時間はかからなかった。
そして、それがまたどこかに送られている。
「カイン!」
ティは思わず叫んだ。カインが弾かれたように飛び起きた。
「なに?」
カインは毛布を放り出すと慌ててデスクに近づいてきた。
びっくりして何が起こったのか分からずに戸惑っている表情だ。
「これ、あなたが指示したの?」
髪をかきあげてモニタを覗き込むカインにティは言った。
「わたしのオフィスからあなたのマシンに情報が送られてる。それがまた移動してるわ。」
カインは手を伸ばすとキィを叩いた。
「ヨクの部屋だ。」
彼はつぶやいた。

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