12.Freezing Blue(2)

カインはベッドの端に腰をおろすと、彼女の顔をかくしている長い髪をかきわけた。
ブランはうっすらと目を開いてカインを見た。
「カインさん…。」
ブランは小さな声でつぶやいた。
「暑い…。のどかわいた。」
「水でいい?」
カインが尋ねると、ブランはうなずいた。
水を持ってきてやると、ブランは辛そうに身を起こしてコップ一杯の水をごくごくと飲み干し、再びぱたりと横になった。
顔が赤い。
「カインさん、今日どこにも行かないで。そばにいて。」
「リアを呼ぶよ。」
少し甘えたような口調で言うブランにそう答えると、彼女はかぶりを振った。
「カインさんがいい。」
カインはしばらく考えたのち、ブランの髪を撫でて立ち上がった。
リアを呼び戻すしかないだろう。
医者に診せるにしても、母親である彼女に一度話しておく必要があった。
カインは再びモニタの前に座った。
『ホライズン』を呼び出すと、すぐにセレスの部屋に接続された。
画面に出てきたのはドアーズだった。
「博士、すみません、あのリ…」
「ご子息!」
言いかけたカインの言葉を遮って、ドアーズは叫んだ。
「すばらしい!彼女はもう起き上がって自分で食事がとれるようになった!反応も昨日の比ではない。会話もするよ!」
「え…」
ドアーズは興奮したように目を見開いていた。
こんな顔をするドアーズを見たのは初めてだった。
「会話といっても、とつとつとした喋りだがね、単語を並べるような。さすがにひとりで立つことはできないが、この分だと相当なスピードで回復するんじゃないかと思う。」
セレスが会話をする…。
面食らって、ただドアーズの顔を見つめるしかない。
昨日までのセレスの記憶しかないカインには信じられないことだった。
「昨日までは夢を見ているような感じだっただろう?今はもう違う。視線も合うし、リアクションも普通だ。いや、全く信じられん!やはりあのお嬢ちゃんの言うようにきみに会ったからかもしれん!」
ドアーズは画面の向こうでこぶしを握り締めて勢いよく振り始めた。
なにがどうなっているんだろう。
カインは少し不気味さを感じた。
「博士…すみません、リアを呼んでいただきたいんです。ブランが熱を出していて…」
カインが言うと、ドアーズは振っていたこぶしを頭の上で止めた。
「あのお嬢ちゃんが?風邪でもひいたかな?」
「さあ…分からないんですが、医者に診せるにしてもリアに伝えたほうがいいと思うので…。」
「そうだな、ちょっと待ってくれ。」
ドアーズは画面から消えた。しばらくしてリアが現れた。
「熱を出したって?」
リアは言った。
「朝、ぼくが目を覚ましたときは気づかなかったんだけど…。」
「でも、しゃべるでしょ?」
「そりゃ、まあ…。」
しゃべることができないような高熱だったら、こんな悠長なことはしていられない。
「心配ないよ。」
リアはこともなげに笑って言った。
「一日くらいで元に戻るから。」
「どうしてそんなことが分かるの?」
カインは訝しげにリアを見た。リアは肩をすくめた。
「昨日、一緒に寝ちゃったんでしょ?ブランはあなたの不安や疲れを自分に吸い込んだのよ。」
また、『ノマド』の不思議な話。
カインは戸惑った。
「一緒に泊まるって言ったから、そういうつもりなのかなっていうのはちょっぴり思ってた。トリも小さいときはこういうこと、よくあったのよ。熱出したり、ずーっと寝てたり。ブランはだいたい悪夢は食べないタイプなの。悪夢は食べるとしんどいからね。だからめずらしいけど。」
カインは何をどう答えればいいのかわからなかった。
リアは彼を安心させるように笑顔を見せた。

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